お墓の守り方、仕舞い方。慣習や多様な間違った情報に影響されない「お墓の在り方」について。
シニアが直面するお墓や仏壇の問題は、身近なことなのに知られていない事が多く、生活様式に合っていないのに「こういうものらしい」と慣習を重んじてしんどい思いをしてきた方も多いと思います。宗教観ではなく史実やマーケットの状況をもとに客観的にアドバイス致します。
この質問に答えられますか?
■お布施は何の料金として払っていますか?
■お墓参りはどれくらの頻度で行くべきですか?
■先祖代々のご先祖様を何世代前まで知っていますか?
これらの質問の裏には、一般の人が意外と知らないお寺やお墓の別の意図があります。これを知ると今までのお墓参りの印象やこだわりが少し変わります。
「様々な約束事や慣習に縛られるお墓まわりの課題」に関して諸々解説します。
お寺に払うお布施の意味
・お布施は檀家制度のころからが始まりとされています。
檀家制度とは江戸時代にできた仕組みで、すべての家は、特定の寺院に葬儀や供養を任せなければならず、菩提寺と檀家という関係で地域を纏めていきました。幕府がキリスト教を排除する目的で制定した「寺請制度(てらうけせいど)」が由来と言われています。
お寺は役所のような機能で地域の家庭を管理し、お布施によってその寺院の運営は賄われました。つまりお布施とはお寺を経済的に支援する制度が原型です。今日では法要を執り行って頂いたあとに謝礼の意味で渡す印象が強いですが、本来は気持ちを包んで(お寺の運営のために)僧侶に預けるためのものなのです。
ですが現実問題としては、相場やお寺からの提示によって金額がある程度決まっており、その他(お寺の改修工事のための)寄付をもとめられることもあります。この檀家による支援構造が壊れ、少なからずのお寺が経営破綻している状況があります。
・300年前は、寺請け制度の仕組みとして檀家制度が機能していたので、特定のお寺がその地域の庶民の葬祭供養を独占的に行いお布施を効率よく集めていました。
支配関係がより増してきたことで常時の参詣や、年忌・命日法要の施行などを檀家の義務と説いて、寺院の運営費という名目で檀家に多くの経済的な負担を強いるようになっていきました。
それが今日における彼岸の墓参りやお盆の法事であり、檀家制度によってそれらは確立し今日まで受け継がれてきたと言われています。
また先祖の供養といった祖先崇拝への関心・欲求を強く持たせることで墓参りを促進し、それによってお布施を無駄なく集め、庶民は信仰心を持って檀家制度を心から受け入れていったという流れがあります。
これがお墓参りと、先祖崇拝先祖供養の背景であり、今日では行動様式のみが受け継がれています。明治以降、寺請制度は廃止され、お寺と檀家という関係を指す「言葉」だけが「制度の名残(なごり)」として現代に残りました。
※この表現には諸説ありますので一説とご理解下さい。
お墓参りの歴史
一般庶民が墓を建てるようになったのは江戸時代と言われています。
一般庶民の墓は「文化・文政・天保(19世紀初期)」の時代以降に建てられたものが多いそうです。天保2年(1831年)に『墓石制限令』発令され、仕様を守るなら庶民も墓を建てていいというお触れが発令されて、それ以降がお墓参りの歴史の始まりとなります。
つまり、家のお墓をお参りをする風習はたった200年の歴史しかないのです。
カロート式家墓(骨壺を納める形式)のお墓は戦後から
お墓には、火葬したお骨が骨壺に入れられて納められていますが、昔は土葬が主流でした。明治時代(1878年)に入ってコレラの流行で伝染病感染予防の観点から火葬が推奨されました。明治初期の火葬率は10%弱だったそうです。そして火葬施設が整えられて1980年代には90%を越え、現在は99.9%と世界一の火葬率を誇ります。
70年から80年前の戦中、戦後すぐの頃が50%超ですから、少ない土地を有効利用できて衛生面でも安心な火葬の普及とともに今のお墓のパッケージが特に都会で定着してきたわけですが、カロート式家墓の歴史はたった80年ほどしかないということになります。
「お墓を継ぐという概念」のはじまり
増え始めたカロート式の「先祖代々の墓」に、明治時代の国民統制の思想が相まって「一緒の墓に入る」とか「墓を継ぐ」「代々の墓を守る」という概念が定着しました。つまり、時代背景とともにあたかも大昔から受け継がれてきたことの様なイメージなのがお墓の承継問題であり「お墓の承継の概念」は古来からのモノではなく、一般的には意外と短い期間の先祖代々なのです。一部には江戸時代から系譜が残っている家系などは古いお墓も有ったりしますが、あくまで庶民のお墓の歴史は思ったよりも短いようです。
お墓の終活 守り方/仕舞い方について
改葬と墓じまいの意味について
★ 改葬とは、お墓に納めている遺骨を別の場所に移すこと
引っ越しが目的ではなく、あくまで供養の形態を今のライフスタイルにマッチさせ、生きている人にとってより良くなっていくことに意味があり、今後供養をどのようにしたいのかを検討していく必要があります。
★ 墓じまいとは、お墓を更地に戻すこと
但し最近では言葉の意味としては広い範囲を指すことがおおくなりました。お墓を撤去して更地に戻すことだけではなく、お寺や霊園と区切りをつけ行政申請も含めたお骨の引っ越しの一連の手続きを経て、先祖代々の供養の方式を変更し新しい生活を始めることまでの意味を含んで使われるようになりました。
もし新しいお墓を考えているなら
まずは、今後の供養のスタイルをどうするかが検討の入口です。お墓を仕舞った後は、何に手を合わせるのかということです。その悩みに対して相談する先の業種によっては、石のお墓の建立を強く勧められることがありますので、あえて業界の事情を解説します。
日本は多死化の時代にはいりました。これから死ぬ人が急激に増えるのです。少子高齢化ということばは馴染みがあるかもしれませんが、その先にある死亡者の激増による問題は一般化していません。葬送業界や石材店は、不足するお墓の需要を予測し開発を進め、大きな予算で販売を目論んでいます。
これからの日本人は、激変する生活のスタイルに適応して慣習に縛られない先祖供養の形を考えていかなければなりません。親族、家族とよく相談し、後悔のないように「家の供養の形」を検討し伝えていく事が重要です。
ご供養の形は以下のようなスタイルがあります。下ほど軽い形。
● 民間霊園で石のお墓を建てる。シンボルを後世に示す。
● リーズナブルな公営(民間)墓地で、簡素で適度な広さの墓を建てる。
● お墓を石で作らない(永代供養墓)。
● お墓を持たない(永代供養、合葬/合祀、手元供養、散骨、宇宙葬)
〇 仏壇(や位牌)も持たず、手元には遺影と簡易な仏具で手を合わせる環境をつくる。
お墓や供養のスタイルを整理
◇お墓のスタイルは4種類+3種類
・一般墓 墓標を石で作る
・樹木葬 自然をシンボルにする
・納骨堂 個別骨壺を安置※近代的な施設もある
・永代供養墓 寺院や霊園が管理し供養する埋蔵施設
・その他 納骨の墓標の概念が無い手元供養と海洋散骨、宇宙葬
◇承継の仕方で供養は3分類
・個別供養:骨壺単位で供養
・合祀/合葬:骨壺から取り出し他人の遺骨と一緒に供養。
・複合型:期間限定で個別供養。一定期間で合祀。
全国のお墓のアンケートでは、墓石の平均購入価格(工事費用含む)は170.4万円で、永代使用料を含めると300万円が1つのめやすになります。 ※全国優良石材店の会「2016年お墓のアンケート調査」より
まとめ
• 単身世帯や一人っ子の増加によって、「跡取りがいない」「経済的な負担を子供に残したくない」「不便なのにどう守ればいいのか?」「自分の代でお墓を終わらせる判断もありか?」と改葬や墓じまいに踏み切れず悩む人が多いです。
• しかし歴史を振り返ると供養の形は時代ごとに変化を繰り返してきました。「古来から」「伝統的な」「慣習」というのが、これからも普遍的に正しい形だと感じるのは錯覚です。ご先祖様の知恵や行動の集大成であることは確かですが、そのままの形ではなく時代に合わせた変化が必然です。
• 今後も供養の形式が変わり続けていくならば、別に今のお墓に固執せず自分達に合ったスタイルや今の事情にあった選択をすべきです。ご先祖様がしてきたように。
• お墓の販売は今後20年間は活況です。そんな推し営業の環境の中でしっかり自分の意思ともって方針を決めていく必要があります。
• お墓参りも何かあったら報告に行く程度のことでいいと思います。行けなくなる心配よりももっと先の子孫の管理の負担を想像すべきです。
これから終活の中でお墓の今後を考える方は多いともいます。是非とも「販促に乗せられず、慣習に縛られず、お寺との付き合いも気にせず、多様な情報の中で自分のご先祖様のお墓を守り、場合によっては仕舞う選択をすることも重要」だということを理解して下さい。
自分らしいより良い人生を締めくくっていただきたいと思います。